文章を書くときに大切なことは、分かりやすく、読みやすく書くということです。知能が高く、知識を豊富に持った人の文章より、読む人のことを考えた「気が利いた文章」のほうが、スラスラと読む作業を続けられ、スムーズに内容が頭に入ってくるものです。美しい文章や優れた文章ではなく、気の利いた文章を書くコツについて考えます。
短く言い切った文でシンプルに意味を伝える
文章を読み慣れていない人にとって、長い文章を読むのはそう簡単ではありません。文章は句点(。)までの文のかたまりと考えると、長い文章を読むとき、句点(。)で示される文の終わりまでをひとかたまりにして意味を把握します。
文の基本形は「何がどうした」という「主語+述語」です。この基本形がすんなり頭に入ってくる文章は意味を捉えやすい文だといえます。
この文の主語は「田中さん」であることは分かりやすいですが、「何がどうした」の「どうした」にあたる述語(述部)は「昼食を食べています」と「会社員です」と2つあります。つまり、二つの文が繋がっている文です。
「目に見える田中さんが今、何をしているか」という説明の後に「田中さんは何者か」を説明しています。これくらいの長さなら問題はなく読めるかもしれませんが、より分かりやすくするに、1文を2文に分けてみます。
- 公園のベンチに座っている田中さんは昼食を食べています。
- 田中さんは公園から100メートル離れたビルの3階にある会社に勤めている会社員です。
さらにシンプルにするために、
- 田中さんは公園のベンチに座り、昼食を食べています。
- 田中さんは会社員です。
- 田中さんの勤めている会社は公園から100メートル離れたビルの3階にあります。
としてみました。
会話との違い。文章は適切な構成を選んでから書く
ケース1の最初の例文を書いたときのことを推測すると、公園の脇で2人で会話しているときに、偶然ベンチに座っている田中さんを見つけ、田中さんを知っている人が知らない人に田中さんについて説明したようなシチュエーションが想定できます。
主語+述語の基本形で表すと読みやすい
会話をそのまま文にすることで、長くて、理解しづらい文になることがあります。田中さんを見ている2人は、公園やそこにいる田中さん、オフィス街などの風景を見ながら話すので、理解しにくいことはないのですが、文に書くと、読む人にとっては文字だけなので、そう簡単ではありません。
文にするときは、まず、伝えたい情報の内容を頭の中で書き出し、「主語+述語」の基本形で表すと、すんなりと読むことができます。ケース1の場合だと(1)~(3)の情報です。
思いついた順番ではなく、分かりやすい順番に並べる
ケース1では、会話の中で出てきた言葉を、そのまま文にしたことが、読む人にとってストレスになりやすいという例を説明しました。同様のケースは、思いつくままに文を書くときに、思いついた順番に書いてしまうことでも起こります。
ケース1の例文で、さらに、読む人にとって親切な文章にするために、この3つの情報をどの順番で伝えるかを考えてみます。
読む人が田中さんのことを知らない場合、(1)→(2)→(3)の順に文を並べると、田中さんがどんな人であるかという情報が一番最後に来ます。
- 田中さんは公園のベンチに座り、昼食を食べています。
- 田中さんは会社員です。
- 田中さんの勤めている会社は公園から100メートル離れたビルの3階にあります。
↓
まずは、田中さんに関する情報を示してあげるほうが、読む人にとって親切であると考えると、(2)→(3)→(1)に並べ替えたほうが自然です。
- 田中さんは会社員です。
- 田中さんの勤めている会社は公園から100メートル離れたビルの3階にあります。
- 田中さんは公園のベンチに座り、昼食を食べています。
修飾語は、被修飾語の直前に置く
読み手にわかりやすい文章を書くコツは、修飾語と被修飾語(修飾される言葉)の関係を誤解を生まないようにシンプルにすることです。
文章の書き手は、自分の頭の中で分かっていることなので、修飾語と被修飾語が離れていても意味を取り違えることはありません。しかし、読む側にとっては、文字情報から頭の中でその情景を浮かべる作業をします。修飾語と被修飾語が離れてしまうと、誤解を招く原因になります。
家族旅行に行く時期が「春」である、という意味でこの文を書いた場合は、意味を取り違えられる可能性があります。修飾語は修飾される言葉の直前に置くという原則に従ってこの文を読むと、マックスは春に生まれたという意味にとられてしまうからです。
家族旅行が春の場合は、
とすると正しい意味が伝わりやすくなります。どうしても、春を前にもっていく場合は、春にの後に読点(、)を置きます。
こうすることで、「春に」と「生まれた」の関連性を否定する効果があります。
まとめ
分かりやすい文章を書くために最も重要なことは、読む人の気持ちを考えることです。文章を書く人は、自分が書こうとしている事柄に関して、情報をたくさん持っている場合が多いと考えられます。
そのため、情報を持っている立場から、持っていない人が分かるように伝えるという配慮が必要になります。自分が見た順序に、思いついた順序に言葉を並べていくと、見ていない人、情報が頭の中にない人には伝わりにくくなることがあります。
伝わりやすい言葉の並べ方のセオリーは、「修飾語+被修飾語」、「主語+述語」といった対応する言葉をなるべく近くに置くことです。どうしても、近くに置けない場合は読点(、)を置いて、対応する言葉ではないことを示します。
また、ケース1の「田中さん」の例文のように、その分の主役となる主語をなるべく早い段階で登場させることも、分かりやすい文にするコツです。