自分の原稿のミスを逃さない「セルフ校閲」の技術

新聞社や出版社では、原稿のミスを防ぐ「校閲記者」が、原稿を執筆した記者でも、その原稿を編集したデスクでもない「第三者の目」で、原稿をチェックします。しかし、メディアで仕事をしていなければ、校閲記者がやるべきチェックを自らしなければなりません。原稿を書いた本人がミスをチェックするのは結構難しいものです。一度、頭をリセットして、「第三者の目」になって、自分のミスを洗い出す姿勢が大切です。

ライター自身のチェック機能の重要性高まる

「校閲」の仕事は、文章の意味や内容について、誤りを見つけることです。よく似た作業で「校正」がありますが、校正の仕事は、編集・製作作業の途中で、元の原稿と比べて誤りを見つけます。これに対し、「校閲」の仕事は、執筆された原稿を読み、誤字や内容の矛盾などのさまざまな間違いを見つけます。

プロの校閲記者は、原稿を読んで間違いを探すだけでなく、実際に原稿に書かれていることが正しいのかどうか、数字や地名、固有名詞などを調べて、ミスを探します。付き合わせた資料との矛盾を見つけたり、事実誤認が疑われるような情報を見つけた場合は、原稿を書いた記者や編集者に問い合わせ、修正すべきかどうかを確認します。

新聞の紙面ができるまでの大まかな流れ

原稿執筆
編集
校閲
整理組版(整理記者が見出しを付けたり、紙面をレイアウトする作業)
ゲラ刷り校正・校閲
降版
印刷

校閲がチェックする機会は2回ありますが、記者が原稿を出稿する前にセルフチェックするので、3回のチェックを経て、紙面になります。しかし、新聞社の合理化やデジタル技術の発達で、校閲のチェックの時間や手間は減る傾向にあります。

一方、校閲機能を持たない現場でライティングの仕事をする場合やネットメディアで仕事をする場合は二重・三重のチェックをするだけの余裕はありません。記者、編集者、校閲記者、整理記者が行うチェック作業を少人数でこなさなければなりません。このため、記者(ライター)によるセルフチェックの重要性は高まっています。

頭をリセットし、第三者の目で声に出して読む

それでは、どのようにすれば、セルフ校閲の効果を高めることができるのでしょうか。まず、自分で書いた原稿を、ライターの目でミスを確認しただけでは、ミスを逃してしまう恐れがあります。

自分の原稿を第三者の客観的な視点で読み直すことは、意識していないと簡単にはできません。原稿を書いてから、しばらく時間をあけて、原稿を書く作業をしてきた頭の中を一度リセットします。

そして、読み手の立場に立って、新しい目で読みます。このとき、声を出して読むと、文章の流れがぎこちなさに気付いたり、詰まってしまうところをチェックすると、ミスが見つかったりすることがあります。

自分の原稿を音読すると、ミスの発見や新たな気づきがあるかも

固有名詞や数字は元資料と突合せる

新聞記事などでは、人名や肩書、組織名、商品名などの固有名詞の間違いは命取りになります。インターネットの普及で、現在では、校閲記者がネットを活用して、固有名詞もチェックします。しかし、取材相手のすべての人が、ネットに名前が出ているわけではないので、記者は取材したときの相手の名刺や固有名詞が正しく記載されている資料をコピーし、原稿と一緒に校閲記者に渡します。

校閲記者がいない現場でライティングの仕事をする場合は、原稿を出稿する前に固有名詞や数字のチェックを自ら行います。一般名詞の変換ミスや、表現の間違い、用語の使い方の間違いなどは、自分以外の人が読んだ場合に気付きますが、固有名詞はそうはいきません。

掲載された原稿を、固有名詞に関係する人が見たときにはじめてミスに気づくこともあります。

数字の場合も同じです。マクロ経済やビジネス関係の原稿では、数字がほとんどすべてことを物語ります。これを間違えてしまうと、原稿の意味がなくなってしまいます。

単語の使い間違いや変換ミスなどは、原稿の商品価値を落とします。しかし、固有名詞や数字のミスは、原稿の商品価値を全くなくしてしまうといっても過言ではありません。

取材・執筆した人は、固有名詞や数字などのデータが書かれているメモ、音声レコーダ、紙資料、ウェブサイトのURLなどを手元に置き、原稿と突き合わせてチェックします。

間違いやすい言葉や、言葉を選ぶべきケース

普段の会話で使い慣れている言葉の中には、ケースバイケースで使用すべきではない言葉や、紛らわしい言葉があります。同じ意味を示す言葉でも、どの言葉を使うかを適切に判断することが必要です。

言葉を選ぶ必要がある主なケース次の通りです。

・登録商標は一般名詞に言い換える
商品について説明しているコンテンツをのぞいて、原則として登録商標を使わず、一般名詞に言い換えます。主な例を以下に示しています。左が登録商標、右が一般名詞です。

登録商標 一般名詞
宅急便 宅配便
味の素 うま味調味料
ウォークマン 携帯音楽プレーヤー
エレクトーン 電子オルガン
セスナ 軽飛行機
万歩計 歩数計

以上は、ほんの一部ですので、もしやと思ったら、辞書などで調べることが大事です。

・誤りやすい語句や用語
話し言葉では普通に使われる言い回しでも、書き言葉では避けるほうが良い表現があります。辞書を引いて、正しい使い方を心がけます。主な例は次の通りです。左側が話し言葉で使われる表現で、右側は本来の表現です。

話し言葉で使われる表現 本来の表現
口先三寸 舌先三寸
クモを散らすように クモの子を散らすように
公算が強い(弱い) 公算が大きい(小さい)
照準を当てる 照準を合わせる
取り付く暇もない 取り付く島もない

・差別語や不快用語には気を付ける
性別や職業、人種、民族、病気、身体的特徴などについて、差別的に受け取られる表現については注意を払うべきです。言葉を使う側に差別的な意図はなくても、その言葉を見た側に苦痛を与えたり、不快な思いをさせることのないように配慮することが肝要です。

まとめ

ミスや間違いを減らすには、できるだけ違った立場の人によるチェックを繰り返すことが望ましいと言えます。しかし、新聞社や出版社のように、プロの校閲記者がチェックしている組織でも、ミスは起こります。

ましてや、セルフチェックが大きな役割を占めている仕事の現場では、「間違いは必ずあるはず」と思って、チェック作業をすることが必要です。

また、固有名詞や数字のミスは命取りになるので、念入りにチェックします。また、取材した本人以外が確認することが難しいような情報についても、「頼りになるのは自分だけ」という気持ちでチェックします。