見出し(タイトル)の付け方を新聞から学ぼう

新聞にとっての見出しは、ひと目で記事の内容が推測できる「看板」のようなものです。駅売り販売が多かった時代は、駅売りスタンドに各紙の1面の見出しが並ぶので、見出しが新聞の売り上げを左右するほどの影響力がありました。

新聞の見出しを付けた経験がある人は少ないと思いますが、webサイト向けに原稿を書く機会がある人にとっては、インパクトのある新聞の見出しがどのように付けられるのかを知っていると、何かと役に立つはずです。

整理記者は見出しを付ける達人

新聞の見出しを付けるのは、プロの整理記者です。整理記者は、取材記者と違って、現場ではなく、編集部のオフィスが仕事場です。

原稿のミスを洗い出す校閲記者と並んで地味な存在です。校閲記者は、小説やテレビドラマの主人公に取り上げられ、そのプロフェッショナルな仕事ぶりを知っている人も多いと思いますが、整理記者の仕事も職人技です。

整理記者の仕事は、自分の担当するページのレイアウト(記事や写真の配置)を決め、記者が書き、デスクが編集した原稿をもらい、見出しを付けます。原稿を印刷に回す締め切りである降版時間まで余裕がない時は、瞬間的にインパクトのある見出しを付けなければなりません。まさに言葉を操るプロです。

短い言葉で多くを語る

新聞の見出しは、読者が最初に目にします。記事の「看板」の役目を果たすもので、看板を見て、記事を読むかどうかを決める読者もいます。また、忙しい読者は、見出しだけを見て、情報を仕入れようとする場合もあります。

見出しの基本は、短い言葉で必要な情報を伝えることです。ニュースのダイジェストの役割を果たす見出しには、読者の目を引き、誰もが理解できる言葉を選びます。

何がニュースかを判断する

見出しを付けた経験のない人に記事を読んで見出しを付けてもらうと、冗長になりがちです。この架空のスポーツニュースを題材に見出しを考えてみましょう。

ケース1
〇〇五輪の陸上男子100メートルの決勝で、ウサイン・ナット選手(ジャマイカ)が9秒60の世界新記録で優勝した。

この記事の中で、考えられるニュースの要素をあげてみます。

  1. ウサイン・ナット選手が〇〇五輪の陸上100メートルで優勝した(金メダルをとった)
  2. ウサイン・ナット選手が陸上男子100メートルの世界新記録を出した。

陸上の100メートルはスポーツ競技の花形です。4年に1回の五輪で金メダルを取ったことはニュース価値が高いと言えます。同じように、100メートルの世界新記録は「人類最速」の記録であり、ニュース価値は高いでしょう。

思わず、次のように見出しに全部盛り込んでしまいたくなります。

「ジャマイカのウサイン・ナット選手が〇〇五輪の陸上男子100メートルで9秒60の世界新記録で優勝」

文字数をカウントすると44文字です。新聞の段見出しの場合で考えると、主見出し(1本目の見出し)は6~10文字程度、サブ見出し(2本目の見出し)は9~12本程度なので、42文字はあまりにも多すぎます。

言葉を短く、省けるものを探す

まず、なるべく文字数を減らすために、いらない言葉、省略できる言葉を探します。その作業は、見出しの基本原則に沿って行います。

  • 名前は苗字(ファミリーネーム)で
    ウサイン・ナット選手→ナット
    (スポーツ記事の場合は敬称も省きます)
  • 略せるものは略します
    世界新記録→世界新 優勝→金、V
  • 「てにをは」などの助詞は省けるものは省きます
  • メーン見出しは「主語+述語」のシンプル形で
  • 述語は体言止め(名詞で終わる)で

上記にあげた基本原則に従うと以下のような見出しになります。

「ナット9秒60世界新V」
これで10文字(60を1文字でカウント)になりました。「V」が砕けすぎて、違和感がある場合は、「金」にしたり、「優勝」のままでも大丈夫です。

サブ見出しには「〇〇五輪、男子100メートル、ジャマイカの選手」などの必要な情報を入れます。

ニュースは何か、誰のための情報か

ケース1では、1文の中に、複数の情報がありました。これを見出しの基本原則に照らして、文字数を減らしました。しかし、実際は、一本の原稿の中に、さらに多くの情報が入っています。

1本の原稿に対し、見出しはせいぜい2~3本です。1面トップでも、5本以上になるのは稀です。

原稿を読んだ後、どれがニュースなのかを考えます。その時、読者像を頭に入れなければなりません。マーケティング用語で「ペルソナ」というと、サービスや商品の典型的なユーザー、お客様像のことを示します。見出しを付けるときも、同じように、誰に読んでもらう記事なのかを考えなければなりません。

再び、〇〇五輪の架空ニュースを題材に考えてみましょう。

ケース2
  • 〇〇五輪の陸上男子100メートルの決勝で、ウサイン・ナット選手(ジャマイカ)が9秒96で優勝した。
  • △△五輪金メダリストのマイク・コージー選手(米国)は9秒88で2位だった。
  • 日本人初の決勝進出を果たした日本記録を持つ佐藤寿勇選手は、10秒02で7位に入賞した。

ケース2の記事は、ナット選手は優勝ですが、記録は9秒96と世界レベルでは平凡な数字です。さらに、2位の選手と7位に入賞した日本人選手の情報が記載されています。

  1. ジャマイカのナット選手が男子100メートルで優勝
  2. 2位には米国のマイク・コージー選手が入った
  3. 日本の佐藤寿勇選手が五輪の男子100メートルで初の入賞を果たした

この場合は、(1)~(3)のどれのニュース価値を高く評価するかは、編集者の中でも意見が分かれる可能性があります。

「五輪の100メートルの優勝は花形競技なので、やはり、人類最速の男が決まった(1)を推す」という意見もあれば、「日本人選手で初めてファイナリストになった佐藤選手の結果を強調するため(3)にすべきだ」との考えもあります。

もし、△△五輪の王者、マイク・コージー選手が注目の選手だった場合、(2)のニュース価値も捨てたものではありません。最終的には編集長が判断して、(3)をメーン見出しにすることが決まったとします。その場合、以下のような見出しが想定されます。

「佐藤、五輪初の7位入賞」
「男子100」「ナット金、コージー銀」

見出しが立てば、原稿も書きやすい

原稿を読んで、見出しをつけるのは、整理記者の仕事です。現場の取材記者は、整理記者が見出しをつけやすいように、原稿の頭に「仮見出し」をつけます。この仮見出しを付ける作業は、原稿をまとめる際にも役立ちます。

見出しは、原稿の中で、ニュース性の高いもの、または最も訴えたいことを凝縮したキャッチフレーズです。見出しが上手くつけられるということは、原稿で何を訴えたいかが頭の中でまとまっているということです。原稿を書くことに慣れている人は、見出しから考えることもできるはずです。

見出しが考えられる記者は、原稿もうまい!

メディアや読者の心を動かすために

また、新聞見出しの付け方のコツがわかると、webサイトの見出し(タイトル)を考えるのにも役立ちます。

コンテンツの検索サイトの上位を狙う場合、検索されることが多いキーワードをタイトルに盛り込みます。できるだけ余計な言葉を削ぎ落し、キーワードを際立たせるノウハウに応用できます。

また、ネットユーザーは、同じ検索結果のページに複数のコンテンツが並んだ場合、インパクトのあるタイトルをクリックしがちです。新聞や雑誌、テレビなどのマスメディアのニュースや情報番組など観察し、プロがつけた見出しを参考にするのもノウハウの吸収に効果的です。

まとめ

宣伝のキャッチコピーを考えコピーライターが「言葉の魔術師」と言われるように、短い言葉で要点を表せる技術は、コンテンツ作りに役立ちます。

新聞社などの大きな組織では、記事の見出しを考えるプロである整理記者がいますが、webコンテンツの仕事では、タイトル付けと原稿を書く作業は一対であることも珍しくありません。センスの良い見出しを付ける技術を高めることは、センスの良い原稿を書く技術の向上にもつながります。