速く書く技術 ライティングのスピードを上げるには

どのような仕事であっても、文章を書く機会はあります。受験や就活で、作文や論文を書かなければならないのも、文章を書く技術が社会人として重要だからです。その一方で、文章を書くのが遅いために、文章を書くことが嫌いになってしまう人も珍しくありません。速く書く技術を身に付けることは、ライティング嫌いを克服するための近道です。

文を書くには、構想から仕上げまでの段取りがある

文章を書くのが苦手な人に共通するのは、パソコンに向かってから、何を書くかを考えることです。プロのライターやジャーナリストでも、パソコンの前に座っているうちに、アイデアが次々と湧いてくる人は少なく、何の準備もなく、書き始めると、たちまち行き詰ってしまいます。

文章を書くためには、段取りが必要です。「何を書くのか」「どう書くのか」「それには何が必要か」などについてあらかじめ決めます。こうした段取りを踏まずに、いきなり書こうとしても、なにも浮かんでこないのは当然です。

それは文才がないとか、文章が下手であるというわけではなく、手順を踏んでいないだけなのです。文章を書くのが速い人は、パソコンに向かって書き始めたときには、出来上がりのイメージが頭の中にあって、あらかじめ決めた手順に従って筆を進めているのです。

文章の設計図を練る

小説家や作詞家など、クリエイティブな文を作り出すプロの中には、思いつくままに書いたり、頭に浮かんだイメージを文字に落とし込んでいくような書き方で、素晴らしい作品を生み出せる人がいます。

しかし、一般的なライティングの場合には、何を書くか、どのように書くかといった構想をまとめた設計図を準備すると、作業がスムーズです。依頼主の発注を受けて原稿を書く場合は、事前に作業指示書のような設計図がある場合もあります。

作文や論文、仕事の報告など自分の原稿を書く場合は、設計をつくっておいたほうが、効率的な作業が可能です。設計図は何かに書いておいてもいいし、頭の中で大まかなイメージを描いておくだけでも構いません。

設計図に盛り込む主な項目は以下の通りです。

  1. 誰のために書くのか(誰に読んでもらう文章か)
  2. 文章を書く目的は何か
  3. 読む人に何を伝え、どのように感じてもらいたいのか
  4. 文章を書くにあたって、必要な情報は何か
  5. どのような構成にまとめて、伝えるのか

設計図をまとめると、頭の中に文章のイメージが浮かぶはず

文章を書くまでの準備段階が、文章の質を左右する

小説家や作詞家、詩人など、個性のある文章を書くプロでない限り、文章を書く準備段階で、出来上がりの文章のクオリティはほぼ決まっていると言えます。設計図の(1)~(5)をそれぞれ具体的に考えてみましょう。

(1)誰のための文章か

誰のための文章かを考える前に、「何を書くか」というテーマがあるはずです。作文や論文の場合、テーマを与えられていたり、選択したりします。または、依頼主から発注されたライティングの場合も、テーマは与えられています。

同じテーマを扱う場合でも、誰に向けて発信する情報なのかを意識することは重要です。わかりやすい例でいえば、地球環境問題を論じる文章で、米国人に向かって発信したい場合を考えます。当たり前の話ですが、日本語よりも英語で書くか、翻訳を頼むかしなければ、日本語が読めない米国人には通じません。

女性の社会進出がテーマでも、誰に向けた文章なのかで書き方は違ってきます。

MEMO

男性に向けて書くのか、女性に向けて書くのか、会社の管理職に向けて書くのか、社会に出る前の学生に向けて書くのか、もしくは、読んでもらいたいターゲットをこれらすべての層に向けるのか、しっかりと意識しておく必要があります。

(2)文章を書く目的は何か

文章を書くのに一生懸命になり、いつの間にか文章を書く目的を見失ってしまう場合があります。例えば、就活で会社に求められた文章が「志望動機」であるのに、会社の状況ばかりを書き、気が付くと、肝心な自分の気持ち(なぜ、この会社で仕事をしたいのかということ)を書き忘れてしまうといったケースです。

志望動機の文章を書く場合、自分が会社のどこに魅力を感じたのか、その会社で何を実現したいのかなど、自分と会社の関係を軸に文章を組み立てなければなりません。文章を書く目的は、会社に自分の経験、能力、熱意を伝えることです。目的を明確に定めることができれば、自ずと何を書くべきかが見えてくるはずです。

(3)文章を書くゴールを決める

文章を書く目的の先に、ゴールを定めておくと、より文章づくりでやるべきことが見えてきます。志望動機の文章を書く目的は「会社に自分の経験、能力、熱意を伝えること」でしたが、志望動機の文章を書くゴールは「会社に自分を認めてもらい、内定を勝ち取る(書類審査をパスする)こと」です。

つまり、文章を書くゴールとは、「読む人がどのように感じるかを推測し、予想通りの反応を得る」ことでもあります。

例えば、映画評論家がメディアで新作映画の論評をする場合を考えます。文章を書く目的は、「この映画は秀作である」という感想を伝えることです。もしくは、「この映画は前評判と違い、期待外れだった」という感想を伝えることが目的の場合もあるでしょう。

ゴールは「読者に共感してもらいたい」ということですが、もちろん、評論家と反対の意見を持つ読者もいるはずです。このように、ゴールを決めたとしても、読んだ人の反応や結果は自分ではコントロールできません。

それでも、ゴールを自分なりに想定しておくことは、文章を書く上で極めて重要になります。

ゴールを想定せずに、後は野となれ山となれという気持ちで書いてしまうと、結局、主張や結論がぼやけてしまう恐れがあるからです。

書き始める前にすべき重要な作業

設計図の(1)~(3)を終えた時点で、ほぼ文章の骨格が見えてくるはずです。この時点で、箇条書きでもいいので、アウトラインを書き出してみると、頭の中の整理が進みます。そして、文章を完成させるために必要な材料(素材)を探し、どのような文章構成を組み立てるかを決めます。

(4)必要な情報をリサーチする

自分が組み立てた文章の結論を補強するために、どのような材料が必要かを考えます。世の中に公表する文章の場合は、引用できる資料を探したり、詳しい人にインタビューするなどのリサーチが必要になるケースもあります。また、就活の志望動機の文章などの準備として、会社の情報や自分の体験を整理することが必要になります。

(5)文章構成を決める

素材が揃ったら、文章構成を組み立てます。文章構成は無数にあり、どのような構成で読む人に訴えかけることができるかは、腕の見せ所です。

以下の2つが典型的な構成パターンです。

  • まず結論や主張を示し、続いて理由や根拠を述べる「論文」型
  • 読者をひきつける具体例から書き始める「起承転結」型

このほか、複数の事柄を比較することで、違いを際立たせたり、出来事が起きた順番に時系列にまとめる方法や、重要な事柄から順番に列挙していく方法など様々なパターンがあります。重要なことは、読者に理解しやすい言葉や文章構成で、言いたいことを論理的に伝えることです。

いきなり完璧を求めず、ざっと書いてみる

設計図ができ上ったら、とにかく書いてみることです。この時、細かい表現にこだわらず、ざっと書き上げてしまうことが、ライティングをスピードアップさせるコツです。

昔の新聞記者は、ライティングをするとき、ボールペンを使って、原稿用紙に書いていました。書き上げた後、デスクの指示で書きな直すのですが、削りや順番の入れ替え、新たな文章の挿入などの修正を二重線や矢印などで入れるので、入力する人が解読するのは極めて面倒な作業でした。

今は、文章作成ソフトが発達しているので、削りや挿入、文章の入れ替えなどの修正作業は簡単です。とりあえず、文章全体を書いてしまってから、細部の表現にこだわったり、説得力のある順番に替えたりするほうが、効率的です。

まとめ

文章が書くのが好きで、自分なりの書き方を持っている人は、ここであげたやり方を踏襲する必要はありません。しかし、文章を書くのが億劫で、自信がない人は、書き始める前の準備作業に目を向けてみると、視界が変わるかもしれません。

文章を書くスピードを上げるには、たくさん書くことが重要です。誰かに教わるよりも、自分が書く経験を積めば積むほど、書く速度は上がり、うまくなっていくものです。

文章の設計図も、慣れてくると、頭の中で大体のイメージを持った時点で書き始まることができます。さらに、途中でより良い素材や文章構成、表現方法などが見つかれば、ライティング作業の中で方向転換できる柔軟性も養われます。