経済連携VS保護貿易主義 勝つのはどっち?

国境を越えて、商品や資金、人の流れをスムーズにし、複数の国で共同投資したりする協定を締結したり、共同体を設立したりする経済連携が進んでいます。その一方で、輸出入の統制と、関税政策を柱とする保護貿易主義が勢いを増しています。経済連携VS保護主義がしのぎを削る背景を探ってみましょう。

論点1 経済連携すると何がいいのか

経済連携を進めることによるメリットは、その対象の国や地域の消費者がショッピングする際の選択の幅が広がることです。

ワインを例に考えると、A国、B国、C国産のワインを高い関税で輸入していたD国が、A国、B国、C国と経済連携の協定を締結し、ワインにかかっていた関税が引き下げられたとします。

そうなると、D国の消費者にとっては、これまで手ごろな値段で買えた自国産のワインのほかにも、A国、B国、C国産のワインの価格が引き下がり、選択肢が増えることになります。

すると、これまでA国産のワインが好きだったけど、価格が高いので買い控えていた消費者のワインの消費量が増える可能性があります。つまり、関税の撤廃や低い税率への変更が実施されると、外国の製品やサービスが安く手に入るようになり、消費マインドが高まって、経済が活性化することが期待できるわけです。

【News Words(ニュースの言葉)】

世界の経済連携の動きの枠組みは、大きく分けて、自由貿易協定(FTA)と経済連携協定(EPA)の2つのタイプがあります。

自由貿易協定(FTA)
2カ国以上の国・地域が関税、輸入割当など貿易制限的な措置を、一定の期間内に撤廃・削減する協定です。締結国・地域間の自由貿易および投資拡大を目的として関税・非関税障壁を取り払います。北米自由貿易協定などの多国間協定と2国間協定とがあります。
経済連携協定(EPA)
FTAに加えて、投資、政府調達、知的財産権、人の移動、ビジネス環境整備など広範囲な取り組みを含む協定であり、締約国間の貿易・投資の拡大を目指す協定である。EPAは、FTAよりも、より広範な分野での協力体制となります。

論点2 自国の消費者のためになるのに、どうして保護主義に走るのか

経済連携をすれば、それらの国の消費者が幸せになるのに、どうして保護貿易主義に走る必要があるのでしょうか?

さきほどのワインの例でいうと、D国がA、B、C国と経済連携を結ぶことによって、D国の消費者はA国、B国、C国産のワインを購入する機会が増えます。しかし、その反面、D国産のワインを買う人が減る可能性が高くなります。

いままで、価格が安いからD国を買っていた人、近所の酒店にたくさん並んでいるD国産のワインを買っていた人、D国産のワインしか知らなかった人…。さまざまなD国産ワイン党の消費者たちの一定割合が、A、B、C国産ワインに流れてしまう可能性は十分に考えられます。

D国産ワインの製造会社は、経済連携を結んだA、B、C国などの消費者たちに買ってもらうことで、D国内での減少分を補ったり、減少分を上回ることができたならば、経済連携の恩恵を受けることができるわけです。

しかし、D国産ワイン会社が、海外での販売経験がなかったり、海外マーケティングを手掛ける人材やノウハウがなかったり、D国の労働者の給与が高いなどの理由で価格競争に勝つ自信がないなどの理由で、海外での競争にしり込みした場合、経済連携に対して「反対」の姿勢を取るはずです。

D国の政治家は、自国のワイン産業の多くが経済連携に反対するなら、保護貿易主義を選択することによって、自分たちへの支持を取り付けることが可能になります。経済連携は国境の壁を取り除くことによるメリットもありますが、連携する国々が同じルールになると、競争に負けてしまうケースが出てくるデメリットもあるのです。

論点3 経済連携は2国間か、多国間かでどう違う?

米国のトランプ政権は、自国の産業を保護する政策を前面に打ち出し、TPPなど多国間協定を脱退する一方で、相手国と個別に協議する2国間のFTAを積極的に進めています。

こうした貿易戦略の背景には、2国間による協定のほうが、自国に優位な条件で交渉を進めやすいという側面があります。多国間での交渉は、米国のような大国でも、民主的な合意を目指すと、少数になってしまい、妥協を強いられるリスクがあります。

多国間交渉は、多くの国が参加するので、人口規模、経済規模とも経済圏は大きくなり、高い経済効果が期待できます。しかし、得意な産業分野が違うさまざまな国が議論に参加することで、統一的なルールを決めるのに時間がかかってしまううえ、決めるために多くの妥協が必要とされ、中途半端なルールになってしまうリスクもあります。

日本をはじめ、各国の通商戦略では、「2国間」と「多国間」をうまく組み合わせ、より高い経済効果を狙っています。

欧州とアジアで経済連携に温度差

「ブレグジット」という言葉を、ニュースでよく聞きます。英国が欧州連合(EU)から離脱することを指します。「Brexit」は 「British(英国)」 と 「exit(出口)」の混成語です。ブレグジットの背景にも、多国間の経済連携の負の側面があります。

EU加盟国は28か国あり、ルールを決める際にも自分たちの思いだけでは決まらず、決まったルールには従わなくてはなりません。EU内では、人の移動が自由なので、東ヨーロッパなど経済状況が良くない国から、英国への移民が増えたことがきっかけと言われています。

これに対し、アジア圏での経済連携の動きは加速しています。世界の人口の半分、世界の貿易総額の約3割を占める経済圏「東アジア地域包括的経済連携(RCEP、アールセップ)」をめぐる交渉が進められています。

関税の削減など市場アクセスの改善により、地域の貿易・投資を促進。また税関手続きや知的財産、電子商取引などのルールを整備することにより、非関税分野における企業活動を支援します。交渉参加国は、ASEAN10か国プラス6か国(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)です。

【News Words(ニュースの言葉)】

世界の主な経済連携

  • 欧州連合(EU、イーユー)
  • アジア太平洋経済協力会議(APEC、エイペック)
  • 環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、通称TPP11、ティーピーピーイレブン)

欧州連合(EU、イーユー)
外交、安全保障、経済・通貨、社会の各分野の統合により、EUの域内取引の障壁を撤廃、貿易の自由化を実現しています。2002年には単一通貨ユーロが発足した。
 

【加盟国(2020年1月現在)】
ベルギー、ブルガリア、チェコ、デンマーク、ドイツ(加盟時西ドイツ)、エストニア、アイルランド、ギリシャ、スペイン、フランス、クロアチア、イタリア、キプロス、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、ハンガリー、マルタ、オランダ、オーストリア、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スロバキア、フィンランド、スウェーデン、英国(脱退を表明)

アジア太平洋経済協力会議(APEC、エイペック)
アジア太平洋地域の21の国と地域(エコノミー)が参加する経済協力の枠組みです。アジア太平洋地域の持続的な成長と繁栄に向けて、貿易・投資の自由化と円滑化を通じた地域経済統合の推進、質の高い成長の実現、経済・技術協力などの活動を実施しています。

 

【参加エコノミー】
オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、中国、ホンコン・チャイナ(香港)、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、パプアニューギニア、ペルー、フィリピン、ロシア、シンガポール、チャイニーズ・タイペイ(台湾)、タイ、米国、ベトナム

環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、通称TPP11、ティーピーピーイレブン)
日本を含む11カ国が加盟。日本を除く10カ国で99%の関税撤廃が約束されており、物品貿易でのメリットが期待されています。さらに、投資を促進する規定が盛り込まれ、電子商取引などの分野におけるルールも整備しています。

 

【加盟国】
日本、ベトナム、ブルネイ、マレーシア、オーストラリア、シンガポール、カナダ、メキシコ、チリ、ペルー

まとめ

経済連携の脱退や保護貿易主義的な動きを示すのは、米国や英国などかつての覇権国です。経済のグローバル化が進む中で、新たな覇権をうかがう中国の存在が、かつての覇権国の危機感をあおっています。それを端的に示しているのが、「米中貿易戦争」と言われる新旧の経済大国の二国間交渉です。

今後の世界の経済連携を展望する中で、米国と中国の覇権争いが大きく影響を及ぼすことは間違いないでしょう。その中で、日本はどのような経済連携を目指すのかも注目されます。